大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)19579号 判決

原告 新生建設株式会社

右代表者代表取締役 野田紅子

原告 株式会社福丸

右代表者代表取締役 新川博通

右両名訴訟代理人弁護士 吉田淳一

被告 伊藤正吾

右訴訟代理人弁護士 宮下文夫

被告 大野良平

右訴訟代理人弁護士 菊地秀樹

原告 株式会社三和企画

右代表者代表清算人 石岡忠雄

主文

一  原告新生建設株式会社の請求をいずれも棄却する。

二  原告株式会社福丸の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告新生建設株式会社の、一を原告株式会社福丸の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告伊藤正吾及び被告大野良平は、原告新生建設株式会社に対して、連帯して、金一〇〇〇万円及びうち金五〇〇万円に対する昭和六三年五月一八日から、うち金五〇〇万円に対する昭和六三年五月二九日から、それぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社三和企画、被告伊藤正吾及び被告大野良平は、原告株式会社福丸に対して、連帯して、金一〇〇〇万円及びうち金五〇〇万円に対する昭和六三年六月二六日から、うち金五〇〇万円に対する昭和六三年七月一九日から、それぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告大野良平は、原告株式会社福丸に対して、金八一〇万円及びこれに対する平成九年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告新生建設株式会社(以下「原告新生建設」という。)が、被告伊藤正吾(以下「被告伊藤」という。)及び被告大野良平(以下「被告大野」という。)に対して、締結した残土処理事業契約の目的が不達成に終わったとして、すでに交付していた報酬(一〇〇〇万円)の返還を、原告株式会社福丸(以下「原告福丸」という。)が、被告株式会社三和企画(以下「被告三和企画」という。)、被告伊藤及び被告大野に対して、右同様、締結した残土処理事業契約の目的が不達成に終わったとして、すでに交付していた報酬(一〇〇〇万円)の返還を、原告福丸が、被告大野に対して、貸し付けた金員(三〇〇万円)の利息分(八一〇万円)の返還を、それぞれ求めているものである。

二  争いのない事実等

原告らと被告伊藤及び被告大野の間で争いのない事実関係、原告らと被告三和企画との関係で証拠上容易に認められる事実関係は、以下のとおりである(以下「前提事実」という。被告三和企画との関係では、見出し末の証拠番号等が認定の根拠となる証拠番号等である。)。

1  当事者(弁論の全趣旨)

(一) 原告新生建設は、建築工事を業とする株式会社であり、昭和六一年一一月に有限会社ベニーという商号で設立され、平成八年一〇月に有限会社福丸とした後、一時株式会社福丸と称したが、平成九年六月に、現商号となったものである。

原告福丸は、建築工事を業とする株式会社である。

(二) 被告伊藤は、訴外株式会社大林組に勤務して土木関係の業務に携り、退職後は訴外共立舗道株式会社を経て、現在無職であるが、土木工事に関する一級土木施工管理士という資格を持つ者である。

(三) 被告大野は、行政書士の資格を持つ者である。

(四) 被告三和企画は、土木建築工事の設計等を業とする会社であったが、平成八年六月一日、いわゆる最低資本金に関する法の規定をみたさずいわゆるみなし解散となっているものである。

2  事業契約1(甲一、弁論の全趣旨)

(一) 原告新生建設、被告伊藤及び被告大野は、昭和六三年五月二〇日、窪地状の土地の所有者から、埋立ての承諾を得る一方、土建業者から一定額の残土処理料を取得して、建設工事現場から発生する残土を土地に搬入させて埋め立て、平坦な状態にした上、一定額の対価を支払って承諾を得た所有者に返還するという事業(以下「本件残土処理事業」という。)を行うことに合意し、千葉県四街道市中台字馬込六三三の一他一四筆合計三万三二七八平方メートルの土地(以下「中台土地」という。)に関し、次のとおり合意して(以下「中台契約」という。)、契約書(甲一、以下「中台契約書」という。)を作成した(以下「中台工事」という。)。

(1)  埋立権利者 原告新生建設(当時の商号 有限会社ベニー)

埋立許可権利者 被告伊藤及び被告大野

(2)  被告伊藤及び被告大野は、中台土地の各地権者からの建設用残土の埋立てと盛土工事に関する承諾とこれを前提とする地方自治体からの埋立許可を得て、この許可を原告新生建設に譲渡する。

(3)  原告新生建設は、被告伊藤及び被告大野が原告新生建設に右埋立許可を譲渡する対価として、五〇〇〇万円を次のとおり支払う。

第一回 五〇〇万円 契約成立時

第二回 五〇〇万円 昭和六三年五月二九日

第三回 五〇〇万円 許認可の時点

第四回 五〇〇万円 許認可後、残土処理権(チケット)の売上金より即時払決済する。

第五回 三〇〇〇万円 許認可後、残土処理権(チケット)の売上金より原告新生建設は被告伊藤及び被告大野に対し、一年以内に支払う。

(二) 中台契約に関して、原告新生建設から、被告大野は三〇〇万円を、被告伊藤は五〇〇万円を受領している。

(三) 中台土地に関して、現時点で行政上の許可は得られていない。

3  事業契約2(甲二、弁論の全趣旨)

(一) 原告福丸と被告三和企画は、昭和六三年六月二九日、千葉県四街道市栗山四一七-一(約三万坪)の土地(以下「栗山土地」という。)に関し、本件残土処理事業(以下「栗山工事」という。)を行うことに合意して(以下「栗山契約」という。)、基本協定書(甲二、以下「栗山協定書」という。)を作成した。

栗山協定書には、原告福丸が工事責任者として被告伊藤を任命したこと(第二条)、栗山土地の本件残土処理事業に関する経費(預り金)を原告福丸は被告三和企画に交付すること(第五条)、栗山契約が不成立に終わったときは経費(預り金)を原告福丸に返還すること(第六条)、とりまとめに関する報酬その他の交渉権は被告大野に一任すること(第七条)が記載された上、原告福丸代表者及び被告三和企画代表者の記名押印、被告大野の署名押印がある。

(二) 栗山契約に関して、原告福丸から、被告大野は三〇〇万円を、被告三和企画は金五〇〇万円を受領している。

(三) 栗山土地に関して、現時点で行政上の許可は得られていない。

三  主な争点

1  被告伊藤及び被告大野は、中台契約に関して原告新生建設から受領した金員の返還義務を負うか。

2  栗山契約において、被告伊藤及び被告大野が、当事者となっていたか。

3  被告大野は、原告福丸に対し、支払義務を負っているか。

4  被告三和企画は、栗山契約に関して原告福丸から受領した金員の返還義務を負うか。

四  主な争点に対する当事者の主張

1  争点1(中台契約における、被告伊藤及び被告大野の金員返還義務の有無)について

(原告新生建設の主張)

(一) 中台契約は、行政上の許認可を得るという仕事の完成とこれに対する報酬という構造からなっているから、法律上請負契約であって、被告伊藤及び被告大野が仕事を完成できない以上、報酬の返還義務を負う。

(二) 原告新生建設の意思としても、被告伊藤及び被告大野の意思としても、契約目的が不達成の場合には、被告伊藤及び被告大野が交付された金員の返還義務を負うことは認識されていた。

このことは、ほぼ同時期に合意された、同内容の栗山契約において、契約目的が達成できない場合、報酬に限らず経費であっても返還義務を負うとされていることからも明らかである。

また、被告大野において、メモ書き(甲五)に、中台契約の金一〇〇〇万円につき「ベニー一〇〇〇」と記載しており、金一〇〇〇万円を返還しなければならないと認識していたことは、明らかである。

(三) 原告新生建設が、被告伊藤と被告大野に交付した金員は、中台契約の報酬であって、経費ではない。報酬を被告伊藤と被告大野が経費に充てるか他に充てるかは、原告新生建設の関知するところではない。

(被告大野の主張)

(一) 中台契約は、埋立許可に向けて作業をするということが約旨であり、請負ではなく、委任ないし準委任契約であるから、経費等につき、返還義務はない。

(二)(1)  中台契約において、締結時は、確実に行政上の許認可を得られるという状況にはなく、頓挫する危険性も当然にあったのであるから、当事者の認識として、事業が頓挫した場合は原告新生建設が負担するとされていた。本件残土処理事業は、一億円以上の売上げとなることを予定して、原告新生建設が五〇〇〇万円の出資をしたのである。

(2)  契約書作成に至るまでに、経費等事業概要に関して書面(甲七、丙一の一)を示して説明しており、経費が必要なことは十分認識していた。

(3) 中台契約書(甲一)に明らかなように、第一、二回目の金員各五〇〇万円が許可取得に当たっての作業の諸経費及び運動費であって、許可が取得できた後の第三回以降の金員が、報酬等に充てられる予定であった。

(三) 中台契約に関して、被告大野が受領した金三〇〇万円は、諸経費ないし運動費としてすでに支出している。

(被告伊藤の主張)

(一) 被告大野の主張(一)ないし(三)のとおり

(二) 被告伊藤は、中台契約の当事者ではない。被告伊藤は、中台契約直後の昭和六三年六月ころから原告新生建設の社員(土木部長)となっており、契約上の地位が変更され、当事者としての権利義務は当然に原告福丸に移転されたので、責任がない。

2  争点2(栗山契約における当事者)について

(原告福丸の主張)

(一) 被告大野は、栗山協定書の文言上、「三和企画……と株式会社福丸……は立会人大野……とともに、……下記の通り合意したので本協定を締結した」と記載されている他、被告大野は、実際上、地権者及び隣地の承諾を得るなどの交渉一切を請け負い、作業も行うなど栗山契約の中心であり、実質上も、契約当事者というべきである。

(二) 被告大野は、栗山契約に関し、「本件許可申請に関する「受託人」」として、金五〇〇万円を「礼金」の名目で受領している(領収書、甲四)ことからも、当事者であるとの認識を有していた。

(三) 被告伊藤は、中台契約を始め被告大野とともに行動しており、実質は一緒であり、栗山契約にも当事者として関与した。

(四) 栗山協定書の六条が直接適用がないとしても、当事者の意思解釈として、五〇〇万円についても、返還義務を認めるべきである。

(被告大野の主張)

(一) 栗山契約においては、被告大野は契約当事者ではない。このことは、栗山協定書上、立会人とされていることからも明らかである。第七条ないし第九条は、原告福丸及び被告三和企画からの依頼により、地権者からの承諾を取得する等の作業を行うとされたことから、関係者として記載されたに過ぎず、事業の補助者として活動したに過ぎない。

(二) 栗山契約に関して金五〇〇万円を受領した際の名目は、諸経費及び運動費であることは明らかである。実際に、金一〇〇万円は、地権者である訴外楠岡季廣に、金一〇〇万円は被告伊藤に支払っている。

また、右金員は、行政書士として受領しているのであって、当事者として受領しているのではない。

(被告伊藤の主張)

被告伊藤は、栗山協定書において工事責任者とされているから、当事者ではないことが明らかであるし、実質的にも、栗山契約当時、原告新生建設の社員(土木部長)だったのであり、関連会社である原告福丸の事業に当事者となることは考えられない。

3  争点3(被告大野の返済義務の有無)について

(原告福丸の主張)

原告福丸は、昭和六〇年三月ころ、訴外株式会社徳中土木(以下「訴外徳中土木」という。)が振り出した、同年六月三〇日決済の手形を、被告大野が経営する訴外株式会社信武(以下「訴外信武」という。)から割引を依頼され、三〇〇〇万円を限度として割り引いたが、不渡りとなったため、訴外千葉銀行から借り入れざるを得なくなった。被告大野に対しては、融通してから訴外千葉銀行から借り入れるまでの間九か月の金利を月三分として計算し、訴外千葉銀行から融資が得られるまでの九か月につき、月額九〇万円の九か月分として八一〇万円を支払うことで合意したのである。

このことは、甲五に平成八年四月一九日に記載したメモ(甲五)に、八一〇と記載があることからも明らかである。

(被告大野の主張)

金三〇〇〇万円については、被告大野の債務ではないし、利息の合意もない。金八一〇万円については、被告大野は、返済合意をしていない。

被告大野は、昭和六〇年三月ころ、訴外徳中土木が振り出した手形について、原告福丸に割引を依頼しており、訴外徳中土木の手形が不渡りにより、個人的に、原告福丸に責任を負うことになった。

原告福丸が右不渡りに関して金三〇〇〇万円を借り入れした訴外千葉銀行に対しては、被告大野は、割引を紹介したことに責任を感じて、その保証料を含め一切を返済している。

原告福丸のいう金八一〇万円は、右不渡りに関連して訴外信武が原告福丸に振り出した、金八一〇万円の手形のことであり、被告大野とは関連がない。

4  争点4(被告三和企画の金員返還義務の有無)について

(原告福丸の主張)

被告三和企画は、栗山契約において、栗山協定第六条により、受領した金員の返還義務を負う。

(被告三和企画の主張)

栗山契約に関して受領した金員は、すべて栗山契約に関する経費として費消したのであり、返還義務はない。

第三主な争点に対する判断等

一  争点1(被告伊藤及び被告大野の金員返還義務の有無)について

1  中台契約において、契約書(甲一)が真正に成立したことは、原告ら並びに被告伊藤及び被告大野間で争いがない。右契約書は、いわゆる処分証書であるから、特段の事情のない限り、書面の内容とおりの合意があったものとされるべきである。

そこで、右契約書を見ると、被告伊藤及び被告大野を埋立許可権利者とし、原告新生建設を埋立権利譲受者として、金五〇〇〇万円で、これから発生する埋立権を譲渡する合意であることがわかる。

しかし、右事業が達成できない場合に、事業の経費を誰が負担するのかについては文言上明らかではない。そこで、右契約の締結経緯、その後の状況に照らして、当事者がどのような認識であったか、右契約上、事業経費がどのように処理されるものとして合意されたかを検討することになる。

この点、原告新生建設は、中台契約は、地権者の承諾を得て地方自治体の許認可を得ることを第一の目的としているから、その性質上請負契約であって、そうであれ、目的不達成の場合には、報酬等一切を返還しなければならないと主張し、一方、被告伊藤及び被告大野は、中台契約は委任あるいは準委任契約の性質を持っているから、経費について返還義務を負わないと反論しているが、中台契約は、複合的な性質を持っており、典型的な契約に当てはめてただちにその効果を導き出すことは相当ではない。

2  そこで、当事者の本件残土処理事業に対する認識からみていくと、証拠(甲七、丙一の一、四、原告福丸代表者の供述、被告大野の供述)によれば、埋立権は、契約時において未発生の権利であり、地権者の承諾と、地方自治体の許認可を得て初めて具体化する権利であること、右地権者の承諾が得られるか、地方自治体の許認可がおりるかなど不確実な要素を含んでいること、地権者の承諾を得るためには相当額の経費が必要となること、合意に至る前に、事業契約として、経費、売上げの予想などが協議されていること、埋立権の譲渡代金とされている金五〇〇〇万円については経費を含む成功報酬であること、原告新生建設が、一時に五〇〇〇万円の代金を支払うことが困難であったこと、本件残土処理事業自体が、許認可を得た段階で投下資本を回収できるのではなく、その後残土処理作業の実現過程において売上げが発生し、利益が上がるものであることから、段階的に成功報酬が支払われるものとされていたこと、中台契約における第二回(昭和六三年五月二九日)の交付金五〇〇万円は、申請料の一部、権利金の一部として被告伊藤及び被告大野に受領されていること、とりまとめ役である被告大野には資金が十分ではなかったことについて、原告新生建設並びに被告伊藤及び被告大野の間で共通の認識であったことが認められる。

3  右事情を踏まえると、最初の一〇〇〇万円のうち経費に充てられる分は、成功した際には成功報酬に含まれて処理されるものではあるが、事業が立ち行かなくなったときは返還する義務を負わないとする被告大野の供述は、十分合理性があるといえる。

4  これに対して、原告福丸代表者は、成功報酬が決まれば、あとは実行者である被告伊藤及び被告大野がその費用と計算において行うので、被告伊藤及び被告大野が費消した目的、状況は関知しておらず、成功しない場合、当然に報酬の前払分は返還されるべきだとするが、本件残土処理事業の性質及び右事実関係と整合的に理解することは困難であり、ただちに採用することはできない。

また、原告新生建設は、平成八年四月一九日に被告大野にその債務を確認したところ、中台契約の一〇〇〇万円を記載したメモ(甲四)の内容を承認したと主張するが、右メモは、原告福丸代表者が作成し、日付と署名を被告大野が行ったというものであって(原告福丸代表者の供述、被告大野の供述)、メモの記載すべてを債務として承認したものとは認められないから、右判断を左右しない。

さらに、原告新生建設は、中台契約とほぼ同時期の、同内容の合意である栗山協定書(甲二)に、残土処理事業の実施に際して必要な経費を規定し(金五〇〇万円)、事業不成立の場合には返還義務を負うこと、ただしその範囲は話し合いによることが定められている(五条、六条)ことから、中台契約においても、交付した金員は、事業不成功の場合には返還すべきものと認識されていたと主張するが、栗山合意にも、後述のとおり、すべて返還するものという趣旨ではないことから、この主張は理由がない。

5  そうすると、中台契約においては、権利譲渡代金五〇〇〇万円のうち、一部が経費として充てられること、その経費分は、事業が成功した場合には五〇〇〇万円の成功報酬に含まれ、事業目的不達成の場合、経費部分は、原告新生建設の事業投資であって、被告伊藤及び被告大野は返還義務を負わないと解するのが相当である。

6  そして、本件では、証拠(甲七、丙一の一、三ないし六、原告福丸代表者の供述、被告大野の供述)によれば、社会通念上、中台契約は履行不能となっていること、被告伊藤及び被告大野は、昭和六三年五月二〇日に交付された五〇〇万円、同月二九日に交付された五〇〇万円を、中台契約の事業経費として費消したことが認められるから、被告伊藤及び被告大野はその返還義務を負わないことになる。

二  争点2(栗山契約の当事者)について

1  いわゆる処分証書である栗山協定書(甲二)についても、特段の事情のない限り、書面の内容とおりの合意があったものとされるべきである。

そこで、栗山協定書を見ると、残土処理事業において、被告三和企画が地権者から承諾書及び隣地の同意書を取得すること、原告福丸は被告三和企画に同意書等取りまとめに関する経費として五〇〇万円を交付すること、被告大野が立会人として原告福丸と被告三和企画とともに協定締結に関与していること、被告伊藤は、原告福丸から工事責任者として任命されていることがわかる。

2  栗山協定書からは、文言上、被告大野は、立会人として協定に関与しているにすぎず、また被告伊藤は、工事任命者として名前が挙がっているにすぎないから、文言上、契約当事者となっているとはいえない。

そこで、別途、被告伊藤及び被告大野が協定の当事者となる、特段の事情があるかにつき検討する。

3  原告福丸は、被告伊藤及び被告大野が契約当事者となっている、中台契約と同様、栗山契約についても両名が進めてきたこと、被告三和企画も被告大野の紹介であり、実質は被告大野が被告伊藤とともに進めるものであるから、被告伊藤及び被告大野は栗山契約の当事者であると主張し、被告福丸の代表者もこれに沿う供述をしているが、被告福丸代表者の述べるところは、被告伊藤と被告大野が実質的に一緒で、一緒に行動していたから栗山契約の当事者であるという、極めて曖昧なものに止まり、それ自体根拠となるか疑問である上、被告三和企画は、被告大野が原告福丸に紹介した会社ではあるが、独立の法人格を有していること、栗山協定書作成時には、被告大野の他、被告伊藤も在席したにもかかわらず署名等、形式的に関与していないこと(甲二、被告大野の供述、原告福丸代表者の供述)によれば、採用することはできないというべきである。

結局、特段の事情を認めることはできない。

被告伊藤と被告大野は、栗山契約において、契約当事者とはいえない。

三  争点3(被告大野の借入)について

1  原告福丸と被告大野との間で、原告福丸が、昭和六〇年三月ころ、訴外徳中土木が振り出した、同年六月三〇日決済の手形を、被告大野が経営する訴外信武から割引を依頼され、金三〇〇〇万円を限度として割り引いていたこと、同年六月三〇日決済の手形が不渡りとなったこと、原告福丸は、右金額につき訴外千葉銀行から借入をしたこと、原告福丸に対する訴外千葉銀行の貸金は、被告大野が支払って完済したことについて争いがない。

2  そこで、右事実関係に関連して、被告大野が、原告福丸が訴外千葉銀行から借り入れるまでの間九か月の金利を月三分として計算し、訴外千葉銀行から融資が得られるまでの九か月につき、月額九〇万円の九か月分として八一〇万円を支払うことで合意したかどうかにつき検討する。

この点、原告福丸代表者は、大野が八一〇万円の手形を振り出して支払約束をし、平成八年四月一九日に被告大野にその債務を確認したところ、八一〇と記載したメモに署名して債務として承認したと述べるが、前述のとおり、右メモの記載すべてを債務として承認したものとは認められないから、採用できない。そもそも、金三〇〇〇万円は、訴外信武あるいは訴外徳中土木に関係するもので、被告大野が直接関与したものとはいえず、いつの時点で月三分の利息を付したのか、被告大野が合意したのかといった点が曖昧であって、原告福丸代表者の供述を根拠とすることは困難である。

3  他方、被告大野は、右三〇〇〇万円について、訴外信武あるいは訴外徳中土木訴外に代わって、原告福丸が借り入れた先の千葉銀行に対し、支払っていること、その保証料一七一万七五〇〇円を含めた返済金として、平成八年一一月一日に現金一〇〇万円を、平成九年四月三〇日に現金一〇〇万円を、同年六月二七日に現金一〇〇万円を、それぞれ原告福丸代表者へ交付していることからすれば(丙二四ないし二六)、右三〇〇〇万円の件については、右支払をもって終了させる意思で行われたものと認めるのが相当である。

四  争点4(被告三和企画の返還義務)について

原告福丸は、被告三和企画に対して、栗山協定書第六条に基づき、交付した承諾、同意書等取りまとめに関する経費(預り金)五〇〇万円の返還を求めているが、被告三和企画は、右五〇〇万円について、うち金二〇〇万円は被告大野に交付し、うち金三〇〇万円は、地権者との交渉、接待等に費消した旨主張している。

そこで、栗山協定書第六条の規定により、被告三和企画は右五〇〇万円を原告福丸に返還しなければならないか(返還義務を負うか)が争点となる。

栗山協定書第六条は、万一本協定が不成立に終わった場合、甲(被告三和企画)は経費(預り金)を乙(原告福丸)に返還する。但し、その預り金の返済については甲、乙、双方の話し合いとする旨規定している。

右規定の趣旨は、栗山契約が、中台契約と同様の性質を有していること、一方当事者が、関連会社である原告新生建設と原告福丸であること、作業実行者は専ら被告伊藤及び被告大野であることからすれば、事業目的不達成の場合、事業に必要な経費部分は原告福丸の事業投資であって、被告三和企画が負担しないのであり、未だ費消されていない経費予定金あるいは、事業と関連のない使途に用いた金員を返還するというものであり、当事者の合理的な意思にかなうものというべきである。

そうであれば、被告三和企画は、栗山工事のために、作業実行者である被告大野に金二〇〇万円を交付したこと、地権者のために費消したことを主張しているが、弁論の全趣旨によりこれらを認めることができるから、被告三和企画は、受領した金五〇〇万円について、返還義務を負わないことになる。

五  その他の主張に対する判断とまとめ

1  被告大野に対する請求

(一) 右一ないし三において判示したとおり、被告大野は、原告らに対して直接の返還義務を負わない。

(二) 原告福丸は、被告大野に対し、栗山契約に関して、被告三和企画の被告大野に対する金五〇〇万円の返還請求権を代位行使すると主張しているが、被告三和企画と被告大野間には、栗山協定書第六条のような規定は存しないから、ただちに返還義務が生じるか疑問であるばかりではなく、前述のとおり、必要な経費として費消した場合には返還義務を負わないとするのが栗山協定書第六条の趣旨であるから、被告大野が他の目的のために費消したなどの特段の事情がない限り返還義務を負わないところ、被告大野にはそのような事情が認められないから、そもそも被告三和企画に対して返還義務を負っていない。したがって、原告福丸の請求は理由がない。

被告大野に対する、原告新生建設及び原告福丸の請求は、前記のとおり、いずれも理由がないから、被告大野が仮定的に主張する相殺の抗弁について論じるまでもなく、原告新生建設及び原告福丸の請求は理由がないことになる。

2  被告伊藤に対する請求

被告伊藤に対する、原告新生建設及び原告福丸の請求は、前記のとおり、いずれも理由がない。

3  被告三和企画に対する請求

被告三和企画に対する、原告福丸の請求は、前記のとおり、理由がない。

第四結論

以上から、原告らの請求はいずれも全部理由がないから、これを棄却する。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 足立正佳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!